ボーヴォワールだからといって、「第2の性」を読んだわけではない。なぜ実家に『おだやかな死』があったのか、想像すると、母が若かりし頃、彼女が看護士であったからだ――。
近代医療が、呪術的でないそれが、根治治療を可能にし出していた時代において、まだまだ科学が発達半ばであり、そのために、患者に苦痛や苦悩をもたらしていた。
時は過ぎ去り、根治治療が不可能となった現代、呪術的なもの、東洋的なものへの一部回帰の必要性が論じられるようになってきた。今だから、それなりにおもしろかったのだろう。母が手にし、今私の手元にあるこの1冊が、とてもおもしろく感じられた。
それにしても、家族の話をするのが好きな作家は、珍しい気がする。
シモーヌ・ド ボーヴォワール、1965、『おだやかな死 』紀伊国屋書店。