彼が彼女の死後、なぜあの忌まわしき交差点に戻ってきたのか。
そして、以前にもまして薬物に溺れ、足腰もおぼつかなくなり、日がな一日立ち上がることもなく過ごすようになったのか。
死を、穏やかにそこで迎えようとしているようにしか思えなかった。
そんな彼に、娘を合わせて、彼女の思い出話をした。
彼の目が一瞬輝き、また暗闇に、淀みに落ち込んでいく。
娘の名を精一杯覚えようと、「みさこ!みさーこ」と何度も口にし、娘に手を伸ばす。
手が触れたとき、彼は微笑んでいた。その瞬間、彼は生きること、その希望を取り戻していた。
その希望も、一瞬の後、淀みの中に崩れ落ちていく。
彼は、チェもを口に当てて吸い込んだ。
吸い込む口からよだれが垂れ、ろれつが回らなくなり、ぼんやりと「ひとみ・・・」とたるんだ表情筋で力なく笑った。
僕はお母さんに愛されていない。
そうかつて語ったときに見せた笑顔に通ずる笑み。
彼は、死を望んでいるようだった。穏やかに、逆らわないという方法で。
そして、最後を、彼女と過ごした、彼女の過ごした交差点で迎えようとしているようだった。
死のうとする、非常に消極的にではあるが確実にそうしようとしている友を、見殺しにしなければならなかった。
生きていてほしい。
彼は交差点に、いるのだろうか。